ホタルイカ posted by
(C)yamanao999「いない」観察に 勤しむ 3月2日、地元の新聞に「明るい春、ホタルイカ豊漁」という見出しが躍った。富山湾に春の訪れを告げるホタルイカの定置網漁が、今年も解禁になったようだ。ホタルイカ漁で有名な滑川市の滑川漁港では、昨年の3倍以上の水揚げがあったとのことで、昨年を超えるホタルイカの撮影ができそうだと、期待に胸を膨らませて出発の機会を伺った。
季節風が吹き荒れる3月の下旬、まずは初戦に臨む感覚で富山湾に車を走らせた。昨年の同じ頃に大規模なホタルイカの身投げと、それをすくい取る地元の人々の賑わいを目の当たりにした自分としては、イカが波打ち際に姿を見せないようなシーンも経験しておきたかったので、あえて強風での撮影に臨んだ。
現地に到着して、すぐに「いない」と直感した。気温と月齢はさほど悪くなかったが、駐車場がガラガラだったからだ。車を停めて浜に出てみると、強い風で舞い上げられた砂粒が激しく顔に当たった。
ホタルイカ posted by
(C)yamanao999一応期待して行ったり来たり観察しているうちに、ポツポツとホタルイカが波打ち際に姿を見せるようになった。
ホタルイカ posted by
(C)yamanao999浜に打ちあがった個体は、砂嵐に晒されて、砂の衣をまとって次々と絶命した。そんな個体を数十パイ拝んでこの日は終了。まさに「いない」観察を体験できたので、これはこれで満足な初日であった。
豊漁から不漁の年に転落 4月も半ばとなり、再び現地へ向かう。月齢は下弦で、空は雲で覆われていた。風はやや強めで、この日もダメモトのつもりで出かけた。この頃より、好調な出だしを見せたホタルイカの水揚げが、昨年比の約半分まで落ち込んで不漁に転じたと報じられるようになった。不漁の理由は記録的な大雪なのか?河川から大量の雪解け水が富山湾に注ぎ込んでいるため、産卵を行なう上層の水温が低過ぎると報道されていた。産卵の条件を満たさないのだから、接岸する個体数も少ないというわけだ。
漁船光跡 posted by
(C)yamanao999 過去のデータを調べてみると、6年前に記録的な不漁という記事を見つけた。2006年といえば、“ 平成18年豪雪”の年である。「今年は厳しいかもしれないなぁ…」などと嘆きながら挑んだこの夜は、前回とほぼ同じぐらいの個体が確認できる程度であった。
ホタルイカ posted by
(C)yamanao999 打ち上げられるのは既に息絶えた個体ばかりで、発光すら見られなかった。自然や人々に冷静に向き合えるので、「いない」観察は多く経験しておくほど後に役立つと思っているが、二度三度と「いない」が続くと、さすがに辛くなってくる。僕が精力的に撮影している昆虫や小動物にしても同じである。「こうしたパターンって、続くものだよな…」と、悪い予感を募らせた。
ホタルイカ掬い風景 posted by
(C)yamanao999 4月下旬の新月を迎えた。そろそろ絵コンテを描いていた写真を撮りたいところだ。さすが豊漁率が高いとされる新月回り。週末と重なったこともあって、海岸は身投げを待つ大勢の人で賑わっていた。気温や風などの条件もよく、初めてホタルイカすくいを経験する学生さんをはじめ、遠方からも多くの人が来ているようだ。僕も一年間想い描いてきた絵コンテを完成させたかった。
ホタルイカ掬い風景 posted by
(C)yamanao999 しかし、しかしである。いくら待ってもホタルイカは現れなかった。
眠る人 posted by
(C)yamanao999 朝方には濃い霧に包まれ、人々の明かりが滲んで何とも幻想的な世界が広がった。これ以上ない好条件の夜だったのだが、散々な結果に終わる。果たして悪い予感は的中した。
しかし、ホタルイカすくいは任せておけという地元の常連さんや、ホタルイカを撮影している写真家の方々から、興味深い話をたくさんしていただいた。結果はどうあれ足を運んでよかった。シーズンになったら浜に通い詰めるという地元の方によれば、この日より少し前に、青い光が波打ち際一直線に現れるぐらいの素晴らしい「身投げ」があって、久しぶりに豊漁だったと。満面の笑みで話してくれたので、こちらも嬉しくなって聞き入った。
自作アイテム posted by
(C)yamanao999溜まったゴミ posted by
(C)yamanao999身投げないまま 閉幕間近 まともに撮影ができないまま、ついにゴールデンウィーク。大潮回りとはいえ満月なので発生条件はいまいちではあったが、やれることはやっておきたいという一心で現地へ向かった。さすがに大型連休とあって、海岸沿いには多くの車が駐車してある。しかし、海に立ち込んでホタルイカを探している人は疎らだった。多くは車内で眠り、好機となる朝方の満潮を待っているのだろう。
しかし、自然とは脚本どおりに進まないもの。この日は僕が赴いた中で月齢を除いて好条件揃いの日だったが、見かけたホタルイカの数は一番少なかった。
ふぐ posted by
(C)yamanao999 気になったのはフグ。波打ち際を揺らめきながら無数に泳いでいた。
フグならバケツいっぱい獲れたであろう。
ヨコエビ目の一種 posted by
(C)yamanao999 また、トビムシの仲間がたくさん浜で活動していた。
ホタルイカ掬い風景 posted by
(C)yamanao999 こうして大不漁のまま2012年のホタルイカシーズンが幕を下ろそうとしている。ゴールデンウィーク明けに原稿を書いているのだが、身投げが期待できそうなのは、残すところ5月下旬の新月回りぐらい。本当に今期はこのまま終わってしまうのだろうか。
ホタルイカの身投げに遭遇する確率が高い日に関しては、いろいろいわれている。新月の満潮時がよいとか、生温かい南風が柔らかく吹く夜がよいなど様々。長きにわたって海岸に通っている方々から伺った情報なので「率」と表現するのは失礼かも知れない。とはいっても絶対条件ではないので、気分に任せて旅やドライブに出かける気分で繰り出すと、非日常的な世界が広がっていてなかなか面白い。何度か足を運ぶうちに、ホタルイカすくいも、釣りや昆虫採集といった自然を相手に楽しむ遊びと同じだと実感できるはずだ。多くのローカル誌が、幸運にもいっぱい採れたといった話題がほとんどを占める中、こうした不漁を直視した記事もなかなか存在しないので、面白いのではないだろうか。
街中のホタルイカを探す ホタルイカに恵まれない日が繰り返される中で、幾度か滑川の街中を散策。もうひとつのホタルイカを探した。それは滑川の街中のいたるところで見られるオブジェやイラスト。僕は子どもと2人で見つけるたびに大いに盛り上がった。少し探すだけでも、いっぱい見つかる。
実物と巡り会えなかった翌日は釣りに興じるのもアリだが、ホタルイカにまつわるオブジェを探しに興じるのも面白いものだ。ホタルイカやシロエビを豊富に使った土産モノなどを買い求めながら滑川の街中をブラつくだけで、あっという間に時間が過ぎていく。特に子供連れの方におすすめしたい。
僕はホタルイカの観察と撮影を始めて、まだ二年目。素人同然なので、地元の方の温かさには心より感謝している。来年もまたお会いできればと思っている。
ホタルイカの身投げ 2011 posted by
(C)yamanao999 春の最高の息抜きとなるホタルイカ探しの旅は、毎年恒例の楽しみとなりそうだ。富山の自然は実に豊潤だ。今年がダメでも来年がある。
豪雪の年と不漁 近年のホタルイカの水揚げ量を調べてみたところ、昭和59年(五九豪雪)〜昭和62年(特に昭和61年は大不漁、六一豪雪)、平成13年(平成13年豪雪)、平成18年(平成18年豪雪)、平成24年(平成24年豪雪)が不漁だった。ほとんどが特別な大雪の年と重なっていることが分かる。
t o y a m a posted by
(C)yamanao999※写真は2012年1月22日のもの。この後、記録的大雪となった。
他の生き物にも積雪は少なからず影響しているはずだ。
ニホンツキノワグマ posted by
(C)yamanao999ちなみにツキノワグマの目撃件数が少なかった年が、平成17年、21年、23年。一概にはいえないが、データを見る限り、大雪になる前年の出没が少ない。つまり、ツキノワグマの目撃件数が少ない翌年は、ホタルイカが少ない可能性が高い。
昆虫や両生類に関しては食物連鎖の下位に位置するので、発生時期とエサの有無、産卵場のコンディション、外敵の濃淡、温度や雨量など、多くの条件が関係し、年ごとに確認できる数は大きく変動する。ホタルイカも同じようなものではないだろうか。こうした種の増減については、今後も自然との関連性を踏まえて探
っていきたいと考えている。近年増加傾向にある自然災害なども密接に関係しているように思う。
暮らしの発展によって自然に対する感覚は低下する一方ではあるが、地球を相手に楽しく遊びながら調べていきたい。
■ホタルイカ不漁の年
1984〜 1987年(昭和59〜62年)
※特に昭和61年が463トンで最も不漁。
1991年(平成3年)
※前年3500トン超に対して1250トンまで急落。
平成4年は約3800トンまで再び増加。
1997年(平成9年)1000トン以下
2001年(平成13年)1000トン以下
2006年(平成18年)約580トン
2012年(平成24年)?トン
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